Jiu勉強帳
(23) 開院まであと3日。エスプレッソとアンティークとエマージェンシー。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
カーテンが未だついていないクリニックの窓からチラッと見える日高の山々には、もう雪が積もっています。
ていうか、十勝以外はだいたい雪景色が広がっているという現在の北海道です。
皆さん、タイヤ交換はお済みですか〜。
ここ十勝に暮らすひとびとにとって、日高山脈と大雪山系の恩恵たるや計り知れないものがあります。
北海道に雪雲がかかっています〜という気象予報を見ていますと、雲の流れが日高山脈にぶつかり、大雪山系に沿ってぐるりと湾曲して流れ去り、ああ明日も十勝は晴れなんだなと思います。
寒さは厳しいですが、冬はすっきりと晴れの天気が多い太平洋側の気象条件は瀬戸内育ちの私にとても馴染みます。
でも去年みたいな暖冬も困ります。今年はそこそこ雪が降るといいですね。
さて、あと3日で開院の日を迎えます。
と言っても現状往診でみている方もいて、予約制なのでお好きにどうぞという体制。内心バタバタしてはいますが、自分の能力以上のことができるわけでもなく。行き当たりばったりの性格が院長という肩書きで変わるわけでもございません。
開院日と言って決めているのにすでにクリニック初診療を終えてしまっているところも自分らしいといえば自分らしいと思います。
去る11月某日、問題行動カウンセリングの依頼をいただきました。
行動専門の動物病院というと、「緊急の患者が来ないのがいいですよね」と同業者に言われることがあります。
自身、師匠である札幌動物行動クリニックの小田先生に、過去に同じセリフを言ったことがあります。ところが、そのとき小田先生は「来たことあるよ、緊急」と答えられました。
夜に突然猫ちゃんが攻撃してきて、今家族全員が動けない、というお電話だったそうです。
エマージェンシーーー!
ですね。まさに。
そして、私にもその類のご依頼がはや舞い込むこととなりました。
問題は犬の夜間の徘徊。そのために飼い主さんが昨夜一睡もできなかった、とのこと。
緊迫度こそ違いますが、一睡もできない日がこの後何日続くのかという思いは1日だって持ち続けたくないですよね。
これはまさしく、緊急の案件です。
そんなわけで、今日来れますか、という話になりました。
幸い、備品は揃っていました。
① テーブル
② いす
③ 温かい飲み物
以上。あ、あと紙とえんぴつ。電気も通ってるし、水も出る。完璧です。
しっかりと記入した質問票とかかりつけ病院での検査結果をお持ちくださったおかげで、こちらが用意するものはほとんどありませんでした。
1時間半ほどカウンセリングをしてじっくりとお話を伺い、わんちゃんの徘徊の原因に医学的な問題が関連していないことを確かめて、行動学的な診断を下します。
そして温かい玄米茶を飲みながら、その日飼い主さんたちが睡眠を確保するためにどうするかをまず考えました。そのための緊急カウンセリングですからね。
そして翌日、一昨日よりは眠れました!というご報告をいただいて、まずはホッとしました。
まだ変動があり、一進一退というところですが、行動治療は初動とその後数日の判断がとても重要です。なるべくこまめに連絡を取り、じゃあ次はこうしよう、それがうまくいくとこういう行動が出るかもしれないので、その時はこうして…などと当日お話しできなかったことをお伝えしています。
問題行動カウンセリングは、緊急でなくてもだいたいこのような流れになります。
飲み物、タイトルのエスプレッソじゃないんかい!
というツッコミをくださったあなた。ありがとうございます。
まあそこは、気分です。あの日は玄米茶がぴったりでしたね〜。
ではここらでエスプレッソとアンティーク、の話をしましょう。
開院にあたり、リフォームもですが、備品や企画の準備も進めてきました。仔犬教室、仔猫教室の資料作りなどもそうですね。
備品は先に書きましたように、最低限必要なのはテーブルといすです。
小上がりがあるのでテーブルだけでいいかなとも思いましたが、そこは家具好きの血が騒ぎまして…。置いてもいいなら置こうじゃないか。
いすは、自宅の食卓いすと同じものです。6脚あるうちの3脚をクリニック用にしました。これは約一年悩んだ末にネットオークションで購入した中古の旭川家具、カンディハウスのNavisというシリーズです。今はもう廃盤だそうで、お店で尋ねても若いスタッフさんはご存知なかったというシロモノ。
立派なヴィンテージといったところでしょうか。お安く入手できて満足です。
そしてテーブルは、正真正銘のアンティークです。人生初アンティーク。
ずっとこんなアンティークが欲しかった…
ということではなく。単純に、サイズ感と伸縮可という実用性に惹かれたというのが実際のところです。
奥行き50cm、幅90〜144cmという天板は、動物病院で馴染みのある診察台とほぼ同じサイズ感です。
決して広くない診療室土間に置くテーブルは、大きなものは無理です。
それで色々さがしていたら、アンティークに辿り着いたという次第です。
アンティークって、案外実用性が高いんですね。狭い部屋で多目的に使うとか引っ越し先にもちゃんと馴染むとか、そういったことも大切にデザインされていることを感じます。
100年も前の外国のひとが作ったものが、今の自分にしっくりくるなんて面白いじゃないですか。結局人間、時代が変わっても国が違っても、机に向かってやることは同じなんだな、としみじみ思うわけです。
書いて考えて話して温かいものを飲む。
それだけで物事を完結させる場所にぴったりのテーブルです。
はい、そしてその温かい飲み物としてエスプレッソ登場。
エスプレッソというより、作りたかったのはカフェラテです。牛乳飲もう、牛乳。
コーヒー苦手な方には玄米茶です。今日は玄米茶やな!という日もあります。紅茶はまだ私にブームが来ていないので、取り揃えておりません。ムーブメントを起こしたい方は是非ご持参ください。
ミニキッチンのIHで無理やり作るカフェラテはちょっとぬるめですが、その分ミルクの甘みが引き立つような気がします。自己採点も甘めです。
そのうち淹れ方も上達するでしょう。
明日はこのテーブルで、内祝いの熨斗書きです。
応援してくださる皆様に感謝を込めて。
なんでアルファベットが入る病院名にしたんやろ。
なんでこんな漢字の多い病院名にしたんやろ。
そんな自分と向き合う時間も、大事にしたいと思います。
(22) 開設まであと1週間。キャットウォークの検証。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
寒いですね。
今朝の十勝は氷点下。縁側に放置されていたバケツの水に薄氷がはっていました。
そんな、どこにも出かけたくない秋の3連休。
ようやく改築工事が終わりまして、クリニック内部の準備を進めているところです。前回ご紹介したキャットウォークが、果たして機能するのか⁈
これは計画した時から最も気になっていた点であり、完成した今、いよいよ確かめる日が来ました。
まえまえからこの2人ならという猫ちゃんに頼んでありまして、今日はその二頭をお迎えしての検証を行いました。
フェリスさんとカティスさんという、麗しき兄妹猫たちです。
友人が飼っている猫なのですが、今年の夏に数日お留守番の彼らのお世話にご自宅に伺いましたところ、好奇心旺盛な彼らは初対面の私にも全く物怖じすることなく。おまけに一緒に連れて行った小学生の相手もこなす余裕ぶり。
食卓に軽々ととび上がり、定位置は食器棚の上という3次元を自在に操るフットワークの軽い健全な猫ちゃんの様子に、これはイケると確信しました。
というのは、一般的に「借りてきた猫」というだけあって、猫を他所に連れて行くと怯えて動かなくなるものです。
「遊ぶ」という行動は、怖いとか嫌だという状況では絶対に見られません。
まえに、姉がノラの仔猫を保護したことがありました。
ケージに入れてシャーシャー言っているちっこい仔猫の兄弟は、最初の頃はまったく遊びませんでしたが、1週間ほどして2匹がケージの中でもんどりうって遊んでいる様子が動画で送られてきました。
その頃にはちょっとビビりながらも姉に触られることを許すようになっており、食欲は爆発、ケージも二階建てにしてもらって飛び回れる状況でした。
怖さが消えたんだな〜というわかりやすい変化ですよね。
そんなわけで、「借りてきた猫」なのに即遊んでくれるという猫は多くありません。これは性格でしょうね。
そんな物怖じしないお二人にも、基本的な猫ルールはあります。
猫が借りてこられたらまずやること。それは、「場の探索」です。
何はともあれ調べます。
子どもがわさわさいたって、無視。猫じゃらしをいくら振り回されても無視。
とにかく調べてまわります。ドアが開くとひょ〜っと出て行って調べ尽くす。
少々高い段差でも見て回らないと気が済まな〜い。
顔から落ちても構わな〜い。おまえら、ほんますげーな。
っていうぐらいとことん探索しながら、時折にゃーんと鳴いています。
どうやら、ここからどう行くの!とか、いやちょっと子どもウザいわ!という時に鳴いている様子。
猫の鳴きというのは、ひととの暮らしのなかで獲得するコミュニケーション術です。飼い主に訴えているのでしょうか。
そんな様子を見せながらも、一通り床の探索が終わると猫ステップに気づきました。1匹がひょいひょいと登ってキャットウォークに達すると、もう1匹もおもむろに。
登れても行き止まりになったりすれ違えない細さのところで鉢合わせになったりで思うように動けないうちはにゃー、ちょっと〜と鳴いていました。
2時間ほど経つころには降り方もようやく覚えた様子で、そうするとリラックス度が違います。わずか20センチの幅なのにペソっと寝そべってみたり、すのこの隙間から前足を出してじゃれあったり。
猫じゃらしの動きも魅力的に映るのか、果敢に追ってきたり。
それはもう下から見ている我々にとっても、楽しい眺めとなりました。
ちゃんと歩いてくれましたよ、大工さん!
我が家ではまだ看板猫を飼おう、という計画はないのですが、実際にこうして猫が遊べるんだということがわかったことは、本当に嬉しくありがたいことでした。
キャットウォークで動ける範囲はたったの2畳分です。
これだけでこんなにいろんな動きを見せてくれるとは、ほんとうに驚きです。
オーストラリアの草原で野生化して子育てをする猫を観察した記録を、ノネコのナオスケの絵本を書いた伊澤先生が同じように絵本にしてくださっていますが、その本の中に樹上で子育てをするお母さん猫の話がでてきます。
その猫の子育て成功率は高い、という事実が書かれていました。
木登り、枝渡りは、猫にとって生存に関わる大切な能力なんですね。
こういう行動を引き出す環境づくりは、猫にとってだけでなく、飼う人にとっても非常に面白いことになると思います。
発想の転換で、人の生活だけを考えればありえない家具の配置を試してみたり、入らないでほしいと思っていた場所を敢えて解放してみたりすることで、簡単に環境操作を試すことができます。
ちょっと器用な方なら、ちょちょいとDIY。
「ねこの目線で街づくり」、試してみてはいかがでしょうか。
ちなみに、「うちの猫もここに連れて行って遊ぶかどうか見てみたい!」という飼い主さんも大歓迎ですが、アタチここ気に入らないワ!という猫ちゃんが大多数であることをお忘れなきようお願いいたします。
フェリかつ兄妹は、とてもレアなケースです。
過剰に怖がらない子なら、連れてきていただいて大丈夫です。
私は獣医ですが、猫ちゃんにとって嫌なことは一切しなくていい獣医さんなので、その辺は安心していただけるかと思います。
猫に見下ろされながら飲むコーヒーも、なかなかオツなものですよ。
(21) 開設まであと25日。小上がりのお話。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
朝晩はだいぶん冷え込んできた北海道です。
もう霜柱ができてますからね。
もうインフルエンザも流行ってますからね。え、早っ!
霜柱はここ十勝では10月で見られるのは普通ですけど、インフルエンザは早くないですかさすがに?
予防接種開始日が今週初めでしたから。その前から近隣の小学校で学級閉鎖のうわさがちらほら。
急いでワクチンを受けに行きましたが、小児科は大変な混雑でした。
皆さまも予防をしっかりと。いまいちど、うがい、手洗いの徹底ですね。
さて、10月も半ばを過ぎて、お家の工事も順調に進んでいる模様です。
大工さんて、すごいですね。一人でここまで組み上げてしまうのですから。
キャットウォークは、家具屋さんが仕立てたように金具一本見えないつくり。素晴らしいです。
写真は、入り口から撮ったところです。
奥が1畳半ほどの小上がりになっていて、子どもさんが来た時などはここで本を読んだり絵を描いたりしながら過ごしてもらえるかな〜と思っています。
天井に渡してもらっているのが、先ほどのキャットウォークです。
仔猫教室の教科書認定(非公認)した本にも載っている様式をアレンジしたものです。本当はもっと回遊できるようにしたかった…など、不十分なところもあるのですが、ここがイマイチなんですよね〜というところも含めて眺めていただきながら
「ねこの目線で、街づくり」
をテーマに猫の行動を学んでいただこうというのがJiu動物行動クリニックの仔猫教室です。
まだ完成写真ではないですが、どうも怪しいなと思い始めている方もいらっしゃるかと思います。
「このクリニック、猫推し?」
まあまあ。
猫ちゃんはもちろん大好きですが、わんちゃんのこともちゃんと考えております。
例えば、この小上がり。
動物病院の診察室に畳の小上がりがある。そんな病院ありませんよね。
スタッフがごろごろするためにわざわざ畳の部屋を奥につくったのは私の古巣、めむろ動物病院の院長ですが。
動物が出入りするところに畳の部屋は普通作りません。動物の爪で畳が傷むからです。
でも日本の家には畳の部屋がたいていあります。
最近は減っているとも聞きますが、狭くても落ち着けるのが和室のいいところ。ちんまりとこもれる子供部屋や書斎を畳敷きにするというのもなかなかいいものです。
座敷っていいですよね。特に小さな子どもさんには。おもちゃを広げてもいいし、座って机に向かって何かしてもいい。片付ければ布団も敷ける。
洋間よりずっとフレキシブルで優れた空間ではないでしょうか。
そして、何よりいいと感じるのが、「ゾーニング感」です。
畳の縁、敷居、鴨居、障子や襖などの建具。古く日本では衝立を駆使して広間を仕切り、何人もの人が寝起きしたといいます。
区切りがはっきりしていると、安心感が生まれます。
また、ここからは他人のスペース、ということが明確であれば認識もスムーズに入り、入って良い悪いを教えやすくなります。
この感覚は、私たち日本人には馴染みのある感覚ですよね。
「パーソナルゾーン」という意識です。なんとなくこの距離間保って接してね!という、誰もが自分の周りに持っている侵されたくない領域のことですね。
犬にもこれがあると言われています。
縄張り意識による吠えや攻撃行動のお話をするときに、専門の先生のなかには、縄張り意識よりこのパーソナルゾーンが関わる問題行動について指摘する方もいます。
これ以上来ないでね、って犬は表現しているのですが、そのボディランゲージがうまく示せない、またはうまく読み取れない他の犬や人が知らず知らずのうちに侵害してしまいトラブルになる、などといった事象です。
コミュニケーションがうまくできないというのは犬の進化の過程でどうしても出てきてしまうようです。読み取る方も大変です。
そんな犬には、猫よりもものごとを教えやすい、という特長もあります。
飼い主さんが腰掛けているここには上がらないんだよ、ということを犬には教えることができるということを実践する場として小上がりというものを作ってみたわけです。
また、畳の部屋で問題行動を起こさせないためにはどうすればいいかを考えるきっかけになれば、という思いもあります。
和室には入れなきゃいい、では犬と過ごしたい飼い主さんが100%満足いく行動修正計画とは言えない場合もあります。
畳の部屋で犬がどうしたいのかを観察して、そこで行う問題行動の意味を考え、足し算にするのか引き算にするのかを考えるわけです。
猫の場合は、爪研ぎをさせたくないならなぜそこで爪を研ぎたいのかを考え、水平方向に爪研ぎをするよりも魅力的な代替品を置いてみたり、畳の上を歩くよりも楽しい通り道を作ってあげたり、色々試すことを考えます。
畳1畳半でこれだけのことが思いつくって、それだけでも価値があると思いませんか。
決して自分がお昼寝したいからとか、家族から引きこもりたいからとかそういう理由ではございませんよ。
もう一つ、強いて理由をあげるとしたら、ある種の懐かしさですかねえ。
私の父の実家は兵庫県篠山市という城下町にありました。イノシシの牡丹鍋と、丹波の黒豆が有名です。
幼い頃によく泊まりに行ったそのおじいちゃんのお家というのが、今では滅多に見ることもなくなった藁葺き屋根のもと商店で。表通りに面してガタピシいうガラスの引き戸があり、中に入ると土間。
正面に昔は商品を並べていたのであろうと思われる、2畳ほどの小上がりがありました。私が遊んでいた頃にはそこにはほとんどものがなくて、陽が傾くのも忘れて姉と2人、ハエたたきでハエ狩りをして遊んだ場所です。(田舎はやることがないんでね〜)
左手に座敷と寝部屋があり、縁側から外に出たところに厠(トイレ)がありました。
もちろん台所は土間を抜けて井戸を通り過ぎた先にあり、おばあちゃんは朝早くからかまどに火を起こし、ごはんを炊いていました。
広い庭は一面畑で、畑から土手に出て歩いて行くと川があり、水生昆虫などを捕まえては喜んでいたものです。ゆうや〜けこやけ〜の、あかとんぼ〜の歌がぴったりな、日本の里山の風景が広がります。
なんとなく、その家の感じをどこかに再現したい思いがあったと思います。
小上がりに腰をかけて通りを見ていたら誰かが来て、ちょっとお茶飲んでしゃべって帰っていく、みたいな風景ですね。
そう言えばこの子が小さい頃お世話になったわ〜などと思い出した時に、そんな風に気軽に寄ってもらえるようなクリニックでいたいなと思います。
でもねえ、北海道仕様の玄関はもう、引き戸は難しいんですって。
土間もね、昔みたいな、ちょっとコケたら服泥だらけになっておかあさんにごっつ怒られるようなthe土!みたいな土間でなくてね。左官屋さんがコンクリートで綺麗に均してくれて、床貼りましょうってなっちゃってね。それはそれで手入れも楽ですし、いいんですけども。ま、なんか小綺麗にしていただく予定になってます。
木の重たいドアになっていますけれども、通りから駐車場もよく見えます。
暇そうやな、と思ったらヒョイっと寄ってみてくださいね。
11月12日火曜日から、開設です。それまでもうしばらく、往診スタイルにお付き合いください。
(20) ジャンケンに負けると怒っちゃう子。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
さわやかな十勝晴れの日が続いています。
澄み渡る空にいわし雲。
サイクリングには最高の季節ですね。
運動不足解消と自宅の工事音から逃れるため、ちょっとそこまで…チャリチャリと出かけます。
エゾリスがせっせと松ぼっくりからタネを取り出して土に埋めている光景に簡単に出会えたりします。
松の実はどうだったか忘れましたが、どんぐりはリスが土に埋めてくれないと発芽できないそうです。
リスは今の時期に、冬のための備蓄としてどんぐりを大量に土に埋めます。
が、そのほとんどを忘れてしまいます。
忘れられたどんぐりは春に芽を出し、森が豊かになる、というお話が1年生の国語の教科書に載っていました。
忘れん坊も、居ないとね。
こんな詩があります。
「勉強する子は忘れん坊」
勉強する子は忘れん坊
手帳に頼ればノー問題
忘れる知識にセイグッバイ
あんたはわたしに役立たず
どこの何が何ページ
それさえ分かれば I want you.
…私が書いたんですけどね。
まったくもって、小学4年生の次男ゆずりの忘れん坊で。オホホ…
ほんっとに、気をつけないとね!と日々思っています。
折り畳み傘を見ると、まだ胸が疼きます。
仕事に関しては、詩にあるとおり、手帳に頼ればノー問題です。
ポケットサイズのM5という手帳を愛用しておりますが、見開きのカレンダーは手描きで作っています。
かなり小さい字で書くことになりますが、できる限りこのサイズに収まるような予定組みで過ごしたいという思いもあります。
自分の身の丈を計りながら、家族との時間も大事にしつつ過ごしたいなあと思う今日このごろです。
犬の知能は3歳児ぐらい、などと世間では耳にしますが、私は小学校中学年あたりの子どもというのが、ちょうどイヌと同じだなあと思える発達段階にあるような気がしています。
兄妹や友だちに、ちょっと嫌なことしてみたり。
だめ!ぜったいだめ!と強く主張してみたり。
さっきまで喧嘩していても、「場」が切り替わるところっと忘れてキャッキャ言って笑っていたり。
子どもにトラブルが起きた時、私たち大人はついつい理屈で叱ってしまいます。
相手の嫌がることをわざとやるような場面を見ると、特にカッときてしまいます。
「どうしてこんなことしたの!」
「○○ちゃんがどんな気持ちになると思う?」
「どうしてお友だちが悲しむようなことができるの」
「こんなこと、したらダメよ。わかった?ごめんねって言いなさい!」
という風に、立て続けにまくし立ててしまいますよね。
でも次の日には同じことをやっちゃうんですよね。
どうしてなんでしょう?
彼らの立場に立って考えてみます。
「どうしてこんなことしたの!」と言われたら、多分黙ると思います。
それは、理由は自分でもわからないからじゃないでしょうか。
「相手がどんな気持ちになるか」「そんなことやっちゃダメ、謝らなきゃね」それは、理解できます。まあ自分がされたら嫌だな…今思えば。という気持ちにはなれるでしょう。
なぜ、人が嫌がることをわざとやってしまったのか。
それは、その時湧き上がった情動に突き動かされた行動を、止めることができなかったからだと思います。
「それは社会的に受け入れられないよ」「ここで爆発しちゃだめ」と言ってくれる脳の部分が、まだ発達途中だからです。
この時期の子どもは、まだジャンケンで負けると怒ることがあります。
幼稚園児かよ!と思ってしまいますが、まだまだ小学生の彼らも、「負け」は受け入れがたい状況なのです。絶対に「勝って」終わりたい!という欲求が強いと感じます。
その場を「勝って」終わるために、ついやってしまった。
というのが理由なのではと思っています。
そんなこと、聞かれて答えられるわけがないですよね。
だから、叱るときに「どうしてこんなことしたの!」「こんなことできるなんて、信じられない!」などと言っても、子どもは悲しくなるばかりでどうすることもできない、ということになります。
つまり、叱っても響かないばかりか、効果もないということになります。
ですので、私は(イライラしていないときは)兄弟喧嘩はできる限り放っておき、最後までやらせるようにします。
嫌がらせをしているところを見たときは、(イライラしていないときは)そういうことすると気分良いよねえ。なんでやろねえ。人間て、そういうところあるよねー。と言ってあげます。(あら?イライラが入っちゃってますか?)
そんなことしてんと、ちょっとこっち手伝って。
とりあえず、その場はそれで良しとします。冷静なときに、その時の気分を聞いてみると結構面白いことを言ってくれます。
自分を抑える能力、脳力と言った方がいいかもしれませんが、それが自然にできるようになるまでは、精神安定のベースである「母の愛情と温もり」を与えることを忘れないようにしつつ、
その行動、マズいんちゃいますか。
と伝え続けるしかないのかなあと思っています。
多分、犬はちょうど、そのあたりにいると思います。
たまに「説得」に応じてくれるわんちゃんもいたりして、本当に小学生と同じだなあと思うことがあります。
この、仕事の邪魔にしかなっていないような子育てが、実はなかなか侮りがたい教材なのかもしれません。
忘れないように手帳に書いとかないとね。
(19) わが街、神戸。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
先日、私の故郷である神戸に6年生の長男と2人で帰省してきました。
日頃苦労をかけている長男を労う旅。
敬老の日なので、92歳になる彼の曽祖母と祖父を訪ねる旅。
という名目で…と言いたいところですが実際は私がやりたいこと、行きたい場所へ長男を引きずり回す旅となりました。
帯広の小学生は、バスや列車などの公共交通機関を日常的に利用する機会がほとんどありません。移動は主に自家用車、あとは徒歩か自転車です。習い事や遊びも車で送迎というのが当たり前。
そんなぬるい生活にどっぷり浸かっている息子に試練を与えるため、移動は高速バス、私鉄、地下鉄、市バスを駆使。乗り換えや切符の購入に戸惑い、自動改札機に挟まれ、電車から降り損ねそうになりながら、スリリングな旅を楽しんでいただきました。
写真は、神戸港を45分間かけて周遊するOcean Princeという船からの風景です。
六甲連山をバックにしたメリケンパークのポートタワーと海洋博物館は、神戸を代表する風景です。夜景はさらに美しく、船のアナウンスでは1000万ドルと称されるとのことでした。
え?100万ドルじゃないん?いつのまに900万ドル値上がった?
と友人たちとやや騒然となりましたが。インフレかなあ…。
この勉強帳にも以前書きましたが、私も24年前はまだ神戸に住んでいて、あの阪神淡路大震災を経験しました。
当時私は19歳で、一浪してセンター試験を受験した2日後のことでした。
震度6弱という揺れは、ザルに入れられて振られているようでした。ものすごい揺れでしたが、その時は震源が神戸とは思わず、関東大震災が思い浮かび、神戸でこれやったら東京どないなってんねん、と半分寝ぼけながら考えた記憶があります。
私の住んでいた地域は幸い被害が少なく、家も屋根瓦がズレた程度で済み、家族は炊き出しなどを手伝っていた記憶があります。受験生だった自分はまだ子どもで、友人たちの無事を確認した後は倒れた本棚から落ちて散乱した問題集を片付けながら「もう使うなってことやな」などと言い、進学への決意を固めたものでした。被害の大きかった地域の方たち、大人たちは本当に大変だったと思います。
昨年9月には、ここ北海道でも胆振東部地震がありました。震度7の厚真町の甚大な被害に加え、全道でブラックアウトという大規模な停電がありました。
現在千葉県で起きている停電の方が期間が長引いており、暑い時期だけに大変なことになっていますが、胆振東部地震のときも物資が届かなかったり節電に努めたり、復旧後もさまざまな不便がありました。
そんななか、調子を崩すのは人間だけではありませんでした。
地震の後、部屋の中をうろついたりカーペットをかじったりという不安兆候と思われる行動をするわんちゃんが来院しました。
カウンセリングをして、最初は地震恐怖症を疑って治療をすすめていき、症状は1ヶ月ほどで良くなりました。治療の過程で、本当に地震恐怖症かな?と飼い主さんと何度も分析を重ね、どうやら不安の原因は地震の揺れではなく、飼い主さんの暗所恐怖症にあったのではという結論に達しました。
停電になったとき、飼い主さん自身がものすごい恐怖に襲われ、その行動の変化が犬を不安にさせていたのでした。
飼い主さんの不安が、犬に伝わってしまうということを、血液中のコルチゾールというホルモンの増減で証明した論文も今年の6月に発表されています。
犬の方が人を見ているというのは日々思うことですが、このような形で飼い主さんの行動が犬の行動を変化させてしまうことがあることを実感した出会いでもありました。
この子のお話は、飼い主さんの了承をいただいて、11月の大阪の学会で発表させていただく予定です。
さて、そんな地震つながりの話題にずらずらと続いてしまいましたが。
そんなことを思い起こしながらの港めぐりのあとは、受験の苦労を共にした懐かしい友人たちとの集いに息子もろとも参加し、大人の夜遊びをちょびっとだけ味わってもらいました。
彼にとっては、さぞつまらなかったことでしょう。
私はと言えば、旧友たちと話しながら、24年前に言葉にできなかったことの多さに驚き、今もなお見つけられていない言葉がたくさんあることに気づきました。
みんなそれぞれ大人になって、子どもがいたり管理職になっていたり。
変わらないけど変わっていく、それでもやっぱり変わらない部分にたまらない安心感を覚えます。
神戸の景色も、震災で色んなところが変わりました。
でも、この六甲山とボートタワーと海洋博物館の眺めは変わっていませんでした。
神戸を離れて4半世紀にもなろうかというのに、わが街神戸という響きに心が震えるのは、歳をとったせいかなあ、としんみり思う今回の旅でした。
えーと、息子は得ることあったのかな?
あとで聞いてみます。
(18)旅行とカーナビと行動学
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
おかげさまで、ベタ基礎まで完成した増築部分です。
このまま9月初めまで置いといて、いよいよクリニック部分も含めた改築工事が始まることになります。
図面と工程表はまだ霞の向こうに隠されているのですが、まあここまできたら霧が晴れる日を楽しみにできるというお楽しみ付きやと思ってお任せすることにして、こちらはこちらで仕事頑張っとくぞ〜、という気持ちです。
さて、小学生にとっては、夢のような楽しい時間。大人にとっては思考停止の昼メシ地獄。すなわち世間で言うところの、THE 夏休み。
これがカラスの子育てシーズンとともに無事終わりまして。爽やかに新学期を迎え、思考停止の日常にさよならを告げたところです。
ありがとう、学校給食センター!
一応、私自身も夏休みを楽しんだ部分もございました。我が家のメインイベントは毎年恒例、福岡帰省でございます。
歯を食いしばって列島縦断するのが楽しい夏休みへの入り口。
福岡空港から、レンタカーでおばあちゃんが待つ山伏の里へ向かいます。
お庭に降り立てばそこはまさに小学生のパラダイス。セミ、カマキリ、キリギリスは取り放題。カエルにヤモリにヘビもわんさか。ウグイスに啼き方を教えることだってできてしまいます。
蚊なんかに負けるか!こちとら除虫菊山ほどあるんじゃい!
え?クーラー?
要らない要らない。
九州の母は強し!気温36度でも、ハチマキ締めて(嘘)窓は全開。余裕ですよ。嫁に来たのが私で良かったですね。
実際、山の上なので風も抜けるし過ごしやすい家なので、クーラーは使わなくて大丈夫なのです。ただし、扇風機は3台フルで働いていただいてますが。
庭との距離が近いこの実家が私も大好きです。
今回の滞在は4日間と短めでしたが、海釣りに行ったり太宰府天満宮に寄ったりと小旅行も楽しみました。
移動は先ほどのレンタカー。運転は夫が担当します。
道案内は助手席のわたくし…ではなく、カーナビです。レンタカーのカーナビは、ふつうのカーナビより少々おしゃべりです。そのくせ肝心なところで黙ったりします。
この7人目の同乗者がなかなか面白かった、というお話です。
カーナビの口癖(品の良い女性の声)
その① 「速度超過を検知しました。安全運転を心がけましょう。」
その② 「急発進を検知しました。」
その③ 「急ブレーキを検知しました。」
ある一定の刺激を感知するたびに、その都度おっしゃいます。
それは本来のお仕事である道案内の最中にも休みません。次右ですよ、と言いかけていても、すかさずこの口癖をぶちこんできますので、「え?次右って言ったよね?!」ってなる。
ものすごい徹底ぶり。
また、急発進・急ブレーキにいたっては、山道のヘアピンカーブでの無理のない操作においても許されないらしく、ちょっと!今のは急発進じゃありませんこと?!とおっしゃる。
さて、言われる側の運転手を観察してみましょう。
速度超過に関しては、法定速度を超えると注意が入りますので致し方ないというところではございますが、いちいち言われるとムッとしていらっしゃる様子がうかがえました。
急ブレーキ・急発進に関しては、釣り餌を買って、よっしゃー海を目指すぞ!と駐車場を出るところでチクリとやられたりするので、少々出鼻をくじかれるといったところでしょうか。
何を言いたいかと申しますと。
これね、このカーナビさん、行動学的に見て、良くないやり方をしているということなんです。
公共のお手洗いなどで見かける、「いつもトイレをきれいにご使用いただき、ありがとうございます」という表示。
これなどは、「トイレはきれいに使いましょう」と貼ってあるのがふつうだった時代と比較して、使用者のマナーが格段に上がったと言います。
「ありがとうございます」と先に言われたら、やらなあかんような、「わかってるよな?」と怖いニィちゃんにすごまれてるようで嫌やわ〜とダウンタウンの松っちゃんは言っていましたが、やはりたいていの受け取り方としては、背筋が伸びるというか、ハイっ、きれいに使わせていただいてます!という気持ちで使うことになると思います。
そしてそれは、やってね?と言われるより抵抗がない、と言えます。
ひとは、
「自分、ちゃんとしてる方ですよ?」
「やべ、見られてる?ちゃんとやんなきゃ〜。」
という心理をたいてい持っています。
もう一つ面白い例がありまして。
ある自治体で、毎年イヌのフンの放置を減らすために、看板を立てたりポスターを作ったり、結構な予算を組んでいました。
あるとき、方法を変えて、予算削減と同時にフンの放置の激減に成功したそうです。
その方法とは、住民の皆さんにチョークを配り、イヌのフンを見つけたらチョークで道路にフンを囲むように円を描いてください、というもの。
これも、先に書いた、ひとの心理をうまくついた方法ですね。
さて、カーナビ夫人に話を戻しましょう。
このお方、このままでは利用者の反感を買うばかりで、安全運転指導はうまくいかないでしょう。
速度超過を検知しそうになったときのセリフは、
「現在あなたは安全運転をされていて、大変ご立派です。そのままの速度を保つようにしましょう。」
という風に変えてみるのはいかがでしょう。
急ブレーキ・急発進を検知したときは、
「急ブレーキを感知しました。同乗者の様子を確認しましょう。」
ぐらいでいかがでしょう。
ご立派です、というセリフに嫌な気分になる方はいないでしょうし、同乗者のことを言われたら、そうかそうか、気をつけなきゃな、と受け入れやすいのではないかと思います。
結局、わんちゃんに行う正の強化、子どもにやる気を起こさせる声かけに共通する要素です。
当たり前の行動を見つけてほめる。
悪いことをしたときにその都度注意されるだけでは、楽しくなくなるものです。
行動学的にいまいちなカーナビ夫人に、いろんなことを教えてもらうことができた、楽しい旅行となりました。
(17)基礎工事の始まりとネコの行動学。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
えー。つい先日、ようやく夏が来た!と言っていたここ帯広。
夏、終わりました。
私がラーメン屋さんなら、「冷やし中華、終わりました」と店の外に貼るだろうなというぐらい、突然に終わりを告げた夏。
さようなら、ありがとう。
とか言って遊んでる場合ではありません。列島には台風が迫っていて、ここ北海道も温帯低気圧の影響で大雨が降り、避難勧告が出された地域もあります。
皆さま、どうぞしっかりと備えて、ご無事で過ごされてください。
先月末の暑いさなかに、ようやくクリニックになるスペースを含めた増築部分の基礎工事が始まりました。
写真は、掘り起こされた基礎部分です。
ホームページで建設の様子もお伝えしていきます、なんて書いておいてなかなかご紹介できなかったのは、大工さんの都合などで着工が遅れていたせいでして。
設計図もできている…はずですが、建築士さんもお忙しいようで最終的なちゃんとしたやつはまだ受け取っていないという…。
若干の懸念もなくはないですが、信頼してお任せしているのでお利口さんにして待っているところです。
お利口さんにして待っているわけですが、やはり予定がわからないというのは不安です。
色々と物事をイメージしたり、言葉を使って順序立てて物事を考えてみたりすることができる人間にとってさえ、次にどういうことが起きるのか予測がつかない状況というのは不安なものです。
イヌやネコは、ひとが感じる以上に「日常と違うこと」に対して不安を掻き立てられることでしょう。
野外で暮らすノラネコの日常を追いかけてみたという研究の一部がそのまま絵本になったものがあります。
「ノラネコの研究」という本ですが、挿絵も素晴らしくきれいで、文章は研究者の伊澤雅子さんが書かれているので、立派な専門書に値する内容です。
伊澤先生が、ある町に住むノラネコの「ナオスケ」の一日を追うという内容です。いわゆるフィールドワークのプロがやる仕事ですから、描写は客観的かつ学術的。
ネコの行動がよく分かる、優れた本です。
ナオスケは、いつも決まった場所を休息場所やエサ場にしているようでした。
午前の遅くに目覚めて、エサ場に向かいます。
途中他のネコに出くわすと、そっと隠れてそのネコが通り過ぎるまで待ちます。
イヌが通り道にいた時などは、30分以上もそのイヌが立ち去るまでジッと隠れて待っていた、という場面もありました。
別のルートを取るということはあまり選択されないようでした。
ネコは、馴染みの道を歩いて目的地に向かいたいようです。
そして、そのために待つことは、あまり苦痛ではないようです。
それよりも身の安全、「いつもどおり」ということを大切にしているのかなと、この本を読んで、改めて思いました。
前回もネコちゃんの診察の話に触れましたが、その方にもおすすめした行動療法が、「いつもどおりのみちを通ってお気に入りの場所にたどり着けるネコちゃん専用ルート」を飼い主さんに作っていただくことです。
話題のキャットウォークってやつね!
と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、そんな『わざわざ』なやつじゃなくていいんです。
出窓や煙突に近くて暖かい棚の上、冷蔵庫の上など、ネコちゃんが気に入りそうな休息場所と、ごはんを食べる場所、トイレ、水飲み場を含めた空間を「ネコの街」と捉えます。
全部見渡せたら、ちょっとつまらない。
時々路地裏なんかも通るから、街歩きって楽しいじゃないですか。
新しい歩道橋があったら、ちょっと今日は渡ってみようかな、上から見える景色はきっと気分良く眺められることだろう…なんていう気持ちは、ネコちゃんにも共通している気がします。
そんなことをイメージしながら、今まではのって欲しくなかった棚や入って欲しくなかった押入れも、発想の転換で「いい」ことにして、「こんな街、住めたら楽しい!」というネコの気持ち?になって部屋を眺めてみていただくと、そんなに大きな模様替えをしなくても、良い感じのネコちゃんルートが見えてきます。
ここら辺ではきっと爪研ぎしたくなるだろうな。という場所に爪研ぎを置いたり。
ここにもトイレがあった方が、アクセス良いって思ってくれるかも。使うかどうか、試しに置いてみようか、と考えたり。
そういえば、このネコちゃん普段から高いところってあまり居ないのよね。ネコといえば高いところが好きだと思うんだけど、どうしてかしら。というネコちゃんには、エサ場を見晴らしの良い高い場所に…というイメージで、飼い主さんが小さなお皿にいれた美味しいごはんで誘ってみたり。
「この先にはこういう場所がある」
「そこに向かうためにわたしは歩いている」
という気持ちは、ネコの心を落ち着ける効果があると思っています。
予想外のことは起きない。
予定通りたどり着けて、そこには美味しいものが飼い主さんと一緒に待っている。
こんな日常を作ってみることが、実際にマーキングの問題を解決したり、攻撃行動を減らす結果をもたらします。
安心できる街には、逃げ場も必要です。
こっちに行こうかな、あっちに行こうかな、という選択を、動物自身ができるような環境にすることも大切なことです。
このような考え方を、エンパワーメント、って言うんだそうです。この前勉強会で、愛媛で開業されているお仲間の先生に教えていただきました。
自分で道を選ぶことができる。
私たち人間にとっても、大切なことですよね。
やっぱり工事の予定、近いうちに確かめましょうかね。
(16) 夏到来。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
帯広市も小学校が夏休みに入ったとたんに、それまでの肌寒い長雨がぴたりとやんで猛烈な暑さがやってきました。
連日の30度超えに扇風機1台で凌いでいる室井家です。
え、クーラー?
要らない要らない。
私の生まれ育った神戸の夏はこんなもんじゃございませんから。
確かにここ数日は十勝には珍しく湿度も高く、北海道にしては過酷な夏日が続いていますが、東京や神戸や福岡はこんなもんじゃありません。
そんな中でも汗だくだくとかきながらそよ風で過ごしてきた我々が、夕方になると25度ぐらいまで下がるここ帯広でクーラーなどと。
汗疹も夏の風物詩。
子どもたちにも、九州への帰省を控えてちょうど良い慣らし期間となっていることでしょう。
ありがたいことに、お問い合わせが増えてきている今日この頃です。
そんな中、大変ご迷惑をおかけいたしますが、8月4日から7日まで帰省のため休診とさせていただきます。
ご了承ください。
そんな夏真っ盛りの今日、すてきな絵手紙が届きました。
一昨日伺ったねこちゃんの飼い主さんからでした。
帰りがけに頂いた桃と一緒に記念撮影。飼い主さんの気持ちが綴られた絵手紙は、桃の甘みを倍増させてくれるようでした。
カウンセリングがお役に立てたのなら、こんなに嬉しいことはありません。
次にお会いするのは1ヶ月後なので、私もさっそく一筆したため、用意していた「診断書」とともに封筒に入れました。
絵手紙に添えられた文に、嬉しい言葉がならんでいました。
そこにあったのは、飼い主さんの「気づき」です。
知らなかった、そうだったのね。なんだかそう考えたら、楽しい!
そう言ってにっこり笑ってくださったのが、とても印象的な飼い主さんです。
依頼をいただくと、「質問票」を送り、記入して返送していただいています。
私は、送り返していただいた質問票を読んで、「分析シート」を作ります。
自分の頭の中にあるものをすべて書き出して飼い主さんと共有するためのシートです。
3枚ほどになりますが、1回目のカウンセリングでは未完成なのでお渡しすることができません。
実際にお会いしてお話を聞くことで、質問票からは埋まらなかった部分を埋めていきます。
このシートには、
「こうなってほしい、というゴール」
を書き込むスペースがあります。
その部分を埋めるのが、診察前になることもあるし、診察後になることもあります。
質問票に、同じことを訊く設問があります。
そのまま書けばいいじゃん。と思われるかもしれませんが、実際にはなかなかそうもいかない時もあります。
「自分の足をかじらないようになってほしい」
「穏やかな性格に」
「ネコ同士ケンカしないでほしい」
色々な望みがあって行動クリニックの門を叩くことになるわけですから、この設問には大抵皆さん答えてくださっています。
動物の問題行動の根っこにある感情がどうなのか。
動物がその行動をとるのは、どういう理由からか。
そういったことを一緒に考えていったとき、飼い主さんの「望み」が変化することがあります。
こうしてシートを完成させて、約2週間後の再診の時に「診断書」とともにお渡しするようにしています。
誰が見ても分かりやすい、絵で描く診断書って、いいやん♪
という自己満足で作っている診断書と分析シートですが、実のところは自分の忘れん坊に起因するアイデアです。
小1の頃に「忘れん坊チャンピオン」の名を欲しいままにしていた私。
そのまま大人になってしまい、しょっちゅう鍵をなくしたり傘をなくしたりして悲しい思いをしております。
さっきまで使ってたのに。
あるいは、
失くしたのは昨日のことなのに、なぜ今日の夕方まで気付かず過ごせた?自分。
といったような、我がこととは認めがたいことがもう、それはもうたくさん。
仕事では絶対に許されないことは当然のことながら、カウンセリングで大切なことは、自分の中でも絶対に失くしたくありません。
でも覚えていられないのも事実です。
それならば、書くのが一番。そんな思いで、せっせとシートを作る時間も楽しい今日この頃です。
あとはそれを失くさないようにするだけ…。
が、がんばります。
(15) 気になる少年。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
なかなか夏らしくならない帯広です。
首や足首を冷やすとてきめんに肩がこるお年頃の私はいまだに夜はレッグウォーマーを手放せません。
畑のきゅうりはいつのまにか太く成長していて、藤のつるも伸び放題。植物の強さに比べて自分はなんとぬるい身体をしていることか。
昨日、そのきゅうりを手土産に伺ったのがカウンセリング2回目になる飼い主さんのお宅でした。
きゅうりは刻んで持って行きました。私の患者さんである、わんちゃんの好物がきゅうりだからです。
お客さんが少し苦手だったというわんちゃんでしたが、きゅうりをくれる私は「味方」と認識したようで、歓待してくれました。
『人間というか生物にとって、山奥や戦場で突然出くわした見知らぬもののどんな情報を一番得たいか。それは、その相手が「敵か味方か」である。』
という一文は、佐藤雅彦著 考えの整頓(暮らしの手帖社)にありました。
著者はある日、電車で「知っているけど思い出せない人」に出会います。誰だったかは思い出せないけれど、その人をみてなんだか嬉しい気持ちが浮かびました。そのあとしばらくたって、その人が以前自分の考えに賛同し周りを説得してくれた方だったと思い出しました。そうだあの人は自分にとって味方だったんだ、と気づいたそうです。
味方かどうか。
それが最も重要なデータだったのです。
これも、私たちの内に伝わる生存のためのプログラムなのだろう、と著者は結んでいます。
先日、小学4年生になる息子の授業参観に行きました。
その日の朝にも読み聞かせに訪れていたのですが、その時の教室の空気に、おや?と感じるなにかがありました。
その日選んだ本は、2年生や他のクラスでは大ウケだった絵本でしたが、妙にこのクラスは静かでした。そして何となく漂う緊張感。どうも、クラスの何人かがリラックスできていないような雰囲気でした。
午後、授業参観に続いて親子レクがあり、体育館で子どもたちと身体を動かしました。
そこで、その気になる少年と出会いました。
数人の男の子が悪ふざけをしていたので、私は見かねて声をかけました。その少年は、真っ直ぐに私を見返し、完全なる反撃体制をとりました。
周りの男の子たちは普段絵本を読んで帰っていくおばさんにいきなり叱られたのでびっくりして、わっやっちゃった、という顔をしていました。けれど彼はそうではなく、驚いた様子も見せずに口をきりっと結び、身体を固くして「こんなおばさんにやられてたまるか!」という姿勢でした。
従順な反応を予測していた私はとても驚いて、こっちが動揺してしまいました。ダメなことはダメなんだよと伝えはしましたが、ただの激おこ母ちゃんだったと思います。
その日から彼のことが気になって仕方がないのです。
10歳にも満たない子どもが瞬時に足場を固めて防御的攻撃姿勢を整えるということ。きっとこれまでにも彼は叱られる機会が多かったのではないか、と思いました。また、その数日後に行われた体力測定で、彼がずば抜けて高い運動能力を発揮したことを息子に聞きました。身体能力を基盤にした自信も、彼には備わっていたのです。
私の懺悔に耳を貸してくださった校長先生もその子を気にかけてくれています。きっと教育者として適切に関わってくださることでしょう。
さて、ただの読み聞かせおばさんである私が、今後どのように彼と関わることができるのでしょうか。
きっと「ヤバいおばはん」ぐらいに思われているだろうなあ。と思いながら、昨日の朝、絵本を一冊携えて彼の教室に行きました。
彼は日直らしく、もう一人の男の子と二人で黒板に何やら言いながら書いています。やはり口をきりりと引き結び、目が合うと意志の強そうな目でしっかりと見返してきます。読み聞かせを始める時間になっても席に戻らず、聞こえよがしに変なことを言ったりしているので、一応「聞かなくてもいいけど静かにしてね」と声をかけました。返事は、「静かにできませーん」。
ここで注意したり叱ったりすることが、功を奏するのか。怒ると叱るは違うんだし、叱られて嬉しい子どももいません。
私は「今日の本は面白いで。」とだけ言って、本の音読を始めました。
選んだ本は、冒頭の写真にある「たくさんのふしぎ」という福音館書店の月刊誌です。
「ブラックホールってなんだろう?」。小学校中学年の少年少女にはたまらないテーマです。
10分間の読書タイムをたっぷり使う、長い絵本でした。難しい内容もありましたが、読み終えるころには全員が席に着き、黙って聞き入っていました。
この少年の頭に、「この大人は味方なのかもしれない」という情報を刻むこと。
それが私のような立場の人間の関わり方なのかな、と思っています。
(14) インコの行動療法。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
日本では、臨床獣医学における専門医制度というものがまだ整っていません。
アメリカなどでは行動学専門医の資格がありますが、相当の時間をかけて難しい課題と試験をクリアしなければ得られないものです。
この資格を持っている日本人は現在お二人いらっしゃいます。
その先生にお聞きするところによると、行動学専門医はあらゆる動物の行動学に精通しているのだそうです。イヌ、ネコのみならずウシ、ウマなどの家畜、鳥類にいたるまで。
それを伺って、改めて専門医教育の奥深さを感じたものでした。
一般に、動物病院というとイヌ、ネコの診療が一般的です。
小鳥やハムスターやチンチラ、モルモット、ウサギ、フェレットなどの小動物、カメなどの爬虫類は診療しませんという病院が多いと思います。
かく言う私も、そういったいわゆるエキゾチックアニマルという括りで語られる動物種の診療を過去に数えるほどしかしたことがありません。
獣医学というのは、もともと人間の食の安全を守るための専門職として国家が取り組んできた教育分野です。
その中で狂犬病の撲滅という功績の立役者である小動物診療分野にもっと目を向けてくれたっていいじゃないか〜という獣医さんたちの声というのは小さくかき消されがちなのが実際のところです。
まして、珍しい種類のペットの診療となると、大学でもほんのさわり程度しか学ぶ機会がありません。
今全国でエキゾチックペット診療を精力的にこなしている獣医師は、みな卒業されたあと仕事しながら、大変な努力をしてほぼ独学で学んだ方たちなのです。
そんななか、行動専門のクリニックとしてこの十勝に根ざしていこうという自分が、イヌとネコの行動診療だけなどと言っていていいのでしょうか。
どのような動物種であれ、ひととの生活に幸せを見いだし、ともに生きてくれる動物がペットとして愛されています。
なかには本来の野生の姿に近い環境を整備することにひとの方が楽しみを見いだすという動物もあると思いますが。
それぞれにあるべき姿があり、ひととの関わりがあります。
人畜共通感染症を予防するというのが最も大切な獣医師の仕事ではありますが、彼ら自身の病気を予防することも獣医師にしかできない、飼い主さんたちが必要としている役割でしょう。
でもやっぱり自分が関われるとしたら、行動学にはなってしまうのですが。
今日の夕方、これまたお友達のペットなのですが、生後3ヶ月のセキセイインコの爪が気になるので切ってくれないかとの要望を受けまして、伺いました。
上手に手乗りになっているくりくりしたピーちゃん(仮)。爪は、と見ると特に過長や変形はない様子。一応先っちょが痛いから落としてくれというのでチミっと切ってみたのですがすぐに血がにじんでしまいました。えらいこっちゃ。
で、ここで、待てよ、と。 (遅い)
なんで爪切って欲しいと思ったの?
すると、「ピーちゃんが肩に乗ってきて、首元から服に潜り込んでくるのだがその時に爪が痛い。普段指を噛んだりはしないのに、首回りを歩くときだけ嘴で皮膚をつまんでくるので痛い」とのことでした。
カゴから出してもらったピーちゃんは実に楽しげに部屋の中を飛び回り、お母さんの肩にとまります。たしかに首のお肌に爪がひっかかって痛そう。嘴も使って、よいしょよいしょと登っています…
垂直に近い場所や足場が不安定な時インコは嘴を第三の足として上手に使います。ペットショップでもカゴの壁をそうしながらつかまるインコやオウムをみたことがある方も多いと思います。
ああ、これで痛いんだあ。
今のピーちゃんにとって、これがいちばん楽しい遊びなんだな。と思いました。
インコやオウムは本来暖かい国のジャングルで樹上生活をしています。一日中木から木へと飛び回り、木の実などの餌を探します。
美味しいものを見つけるために、群の仲間を守るために、いいねぐらを確保するために、常に頭を使う動物です。
実際、とっても頭が良く、たいくつなのが大嫌い。その分、問題行動や精神的なストレスが原因となって発症する疾患も多いと言います。
お母さんが痛い思いをする機会が減れば、爪への心配は無くなるのかもしれない、という考えにようやく至りまして、もってきたインコ用おもちゃの本とハムスターの床敷にする紙のチップを出しました。
早速小学生の息子さんたちが折り紙で紙風船を折ると、サッカーボールのようにつんつん!とどこまでも追っていくピーちゃん。
おやつに出してもらったチンゲンサイを無視して紙チップをほぐすのに夢中になるピーちゃん。
それはそれは楽しそうに遊んでくれました。
その後、おもちゃ作りにハマったお子さんたちとばっかり遊ぶようになり、お母さんのところにあまり来なくなったそうです。
たっぷり遊ぶのでお腹が空くと自分でカゴにもどるようになったと喜んでくれました。
自分への教訓は、
爪切る前に考えろ
です。
なんか哲学的〜。
鳥さんのこともちゃんと勉強して、しつけ教室がひらけるぐらいにならねば、と決意したピーちゃんとのひとときでした。
(13) 研究会。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
先週土曜日、日本獣医行動学研究会のオンラインセミナーに参加しました。
同じ日に、長年お世話になっている十勝小動物開業医の勉強会もあり、20時から21時10分前まで勉強会の方に参加して、途中で退室させていただきまして家に戻り、iPadでオンラインセミナーに繋ぎました。
家には戻りましたが、そのまま車の中で参加。
21時と言えば、子どもたちは寝る準備をしている頃です。とても集中できる環境ではありません。
こうなれば、車も立派な書斎です。(ああ早く診療室ができないかなあ)
オンラインセミナーには初めて参加しましたが、非常にためになる内容でした。
全国に散らばる行動学に携わる獣医師だけの会。
ほかにも、神経学の会、腫瘍学の会、整形外科学の会、麻酔の会などが、よなよなあちこちで開催されていることでしょう。
専門を極めていくには、大切な基礎部分がしっかりしていないとぐらついてしまうのはどんな仕事にも共通することだと思います。
飼い主さんと直接お話をし、イヌやネコを診察する。
これが、全ての専門分野に共通する基礎部分です。
一目みて、あれ?と思う感覚。
ここがちょっとひっかかるな、こういう疾患が考えられるから、この検査とこの検査をおすすめしてみよう。この検査もしたいけど、余計なお金もかかるし動物にもストレスを与えることになるかもしれないから、先の検査結果を見てから決めよう。
触診や聴診をしながら、こんなふうに考えます。
そしてできるだけ飼い主さんにわかりやすく伝えるようにします。
これを上手にできないと、いい獣医さんだね、とは思ってもらえませんし、診断もうまくいきません。
ここをしっかりと築いて、両足でスッと立っている獣医師だけが専門のセミナーに参加して、堂々と発言されているものなんだ、と感じられるオンラインセミナーでした。
自分の足もとはグラついていないか。
客観性に基づく診断ができているか。
今夜もまた勉強会で、こちらは前回少し触れましたマニアックな会でして。
師匠の札幌動物行動クリニック院長の小田先生はじめ、自分が行動学を専門にしようと決めてから15年以上の付き合いになる同志の先生方との勉強会です。
お互いに経験を共有し、思い込みを指摘しあい、世界基準に沿って勉強し直す貴重な時間となっています。
時に、悩んだ症例の相談にものっていただいています。
Jiu動物行動クリニックには獣医師ひとりしかいませんが、その奥には知恵の泉があるのです。
行動クリニックとして、十勝の小動物開業医のひとりとして、獣医行動学研究会の一員として、今日も動物の行動について思いを巡らせています。
(12) めむろ動物病院とわたし。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
今朝は、小学2年生の教室で絵本の読み聞かせをしてきました。
2クラスしかない学年の、2組さんの教室へ。
ちなみにうちの長女と三男は2年1組にいます。
今日は娘たちがいない方のクラスというわけです。
2組の教室に入ると、ひとりの男の子が寄ってきて言いました。
「○○(娘の名前)のお母さん。○○は隣の組なのに、どうしてこっちの部屋で絵本を読むの?」
読み聞かせは、もう一人のお母さんと交代で1組2組と入れ替わっているので、単純に今週はこっちというだけなのですが、そこは正直に
「よその家の子の方が、かわいいからにきまってるやん?」
と答えておきました。
彼は納得したように頷いて座り、横にいた担任の先生は「衝撃の事実ですね…」と呟いていました。
自分の子よりもよその子の方が可愛い。
照れ屋の私がもう少し正直になって申し上げますと、「自分の子も可愛いが、よその子の可愛さというのはまた格別なのよ!」ということです。虐待親ではありません。通報しないでください。
開業する前は、動物病院の勤務医として数々の動物病院でお世話になってきた私ですが、動物病院で働いていたときいつも思っていたのは
「よそのうちのペットって、なんて可愛いの!!!」
ということ。
自分が飼っていたネコより、絶対可愛い。そらもう、どてっと寝そべるデブ猫と化していた我が家の猫より、ちょこまか走り回る仔犬の方が文句なしに可愛いに決まっています。
そしてなにより、お世話をしている苦労がない状態で触らせてもらえる幸せ。これが決定的なポイントでしょう。
読み聞かせに行っていて感じる、同じ幸せ。あ〜、これこれ。と思います。
新卒でお世話になった思い出深い動物病院が、帯広市の隣の町芽室町にある、めむろ動物病院です。
建物の外観は、かわいらしい黄色い壁の、ふつうの動物病院に見えますが、中身はかなり個性的かつ魅力的な病院です。
院長の樋詰先生は主に大動物(牛や馬、ミニチュアホースも)の往診に朝から晩まで十勝の大地を走り回る、英語ペラペラ、なんでもござれのホッケーおやじ。じゃなかった、獣医さん。
院長の留守を預かり、病院で小動物の診療にあたっているのがかわいい後輩、坂元先生。
二人を支えるスタッフが、噂の美人三姉妹…か?詳細は割愛します。
全員、わたしが勤めていたときからずっとめむろ動物病院を支えているベテランスタッフです。
坂元先生は、私を直接指導してくださった村山先生が退職されるのと入れ違いに入ってくれたときは新米ほやほや獣医さんでした。
が、当時なぜか多忙を極めた小動物診療。指導してあげる余裕ゼロの私をむしろフォローしてくれるという驚異の新人で、気づいたら一人前になっておりました。まーあんたいつのまに。
2人目を産んで間もなく復帰した私を嫌な顔ひとつせず迎え入れてくれて、すっかりなまった私に新しい知識を噛み砕いて教えてくれました。
樋詰先生はお忙しいのに毎年クリスマスにケーキとプレゼントを持って我が家を訪れてくださり、子どもたちにはひづめサンタと呼ばれております。
そんなめむろ動物病院に、先日友人の猫ちゃんと一緒に行ってきました。
最近痩せてきて、食欲がなくなってしまった猫ちゃん。どうやら腎臓が悪い様子。
坂元先生はささっと超音波検査で腎臓を調べ、腫瘍などがないことを確認したのち、これまた手早く点滴留置と経鼻カテーテルを留置してくれました。
無駄のない追加検査。飼い主と猫に負担をかけない手早い処置。
後輩が素晴らしいと、先輩としては本当に眩しい気持ちになるものですね。
そして、そんな私に坂元くんが黙って渡してくれたのが、冒頭の写真にある本です。
病院で定期購読されている専門雑誌で、ちょくちょくお借りしに行く私は今日はこれがあったら借りていこう…と思っていたところでした。
猫ちゃんの診察と治療にあたりながら私のニーズにも素早く反応するこの能力!これまでの苦労が偲ばれます。
頼もしいホームドクターに友人の猫ちゃんを託し、私は専門誌を広げて至福の時です。
全国で行動診療にあたる獣医師の仲間はどんどん増えています。
私も2週に一度、同好の獣医師とskypeで繋がる勉強会に参加しています。いつもマニアックな議論を交わし、充実した時間となっています。
より深く、イヌとネコのあたまを理解できるように。
同時に、自分たち人間のあたまも、深く掘り下げられるように。
周りに支えられながら、前進していきたいと思います。
(11) コーヒーと文具。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
今日はコーヒーと文具のお話です。
行動学と何の関係があるんじゃい。といわれそうですが、クリニックには関係があります。
まず、コーヒーです。
私は最近、スティックコーヒーを卒業したばかりという「珈琲ド素人」です。
スティックコーヒーもお手軽で美味しくいただけてほっこりできる素晴らしい飲み物ですよ、みなさん!
でもそろそろ大人の嗜みを身につけたい。
てなことで、導入したのは「大坊珈琲店」のネルフィルターです。
クリニックでカウンセリングをするようになったら、2時間近くに及ぶ長丁場の初回カウンセリングの時間をよりリラックスして過ごすために、コーヒーでも飲みながらやりたいものだ、と夢想しています。
コーヒーが苦手な方には日本茶を。紅茶は今のところ、こだわりがなくてティーバッグかなあ。そのうち詳しく教えてくださる飼い主さんがいらしたら、茶葉を揃えたりしだすかもしれません。
とりあえず今は、適当に選んだ粉をネルフィルターでゆっくりと濾して、飲む。コーヒーはこれだけです。
やっぱりミル必要かな…。豆や焙煎にもこだわるべきでしょうか。
などと思いながら、「大坊珈琲店」のご主人が書いた本を読んでいます。
***
話は変わりまして。
お電話などでお問い合わせをいただきましたら、「質問票」を送付させていただいています。書き込んで返送していただく、A5サイズの用紙10枚ほどの書簡です。
ご自宅にお送りするときには、簡素な文ですが一筆添えさせていただいています。
ペンを取って紙に書くこと、については前にも書きました。
書くことで頭が整理される。
そのことは、中学の頃に日記をつけるようになって気づいた気がします。
ヒトは言語を操ることができる唯一の哺乳類です。
ヒトの赤ちゃんは1歳になる前でも、「無くなっているはずなのにある」「落ちたはずなのに落ちていない」などの事象が、おかしい、ということがわかるそうです。
言語化することができるようになると、短期記憶から長期記憶に移行させることができるようになるのだそうです。
「思考をまとめる」「伝える」「アイデアを生みだす」ことに言語は不可欠だと思います。ひとによっては絵に描いたり音楽にしたりすることが思考をまとめる刺激になる、ということもあるでしょう。ですが、私は「言葉にする」ということが自我の芽生えや認知を高めることにとても重要なのではないかと考えています。
言葉にしたり、字を書いたりする技術をもっと磨きたい。
獣医学や行動学を学ぶ意欲と同じぐらい、そう思っています。
そこで、そう。文具です。
写真は、一筆箋にしているハガキサイズの原稿用紙に、先の大坊珈琲店のご主人が書いた本にあった言葉をうつしとってみたものです。
「倉庫に眠っていたエチオピアは、当初のテイスティングで却下した種類でした。しかしなんとか工夫してローストを繰り返しているうちに、いい表情を現してきたのです。今では最も大切な相棒です。模索し、話し合いを続ければいつか変わる。良くなることがあるものです。」
このとろりと流れるような文章の美しいこと。
コーヒー豆のことを語る言葉が、問題行動を抱えた動物と向き合う姿勢について語られている言葉としてしっくりと染み渡ってきます。
読んだときにも感銘を受けましたが、こうして書いてみるとまた、改めて深く浸透してくるように思います。
練りに練ってきた思考を持つ方が書く文章が放つ威力ってすごいな、と、四十を過ぎて思う今日この頃です。
自分が書く文章や絵にもこんなとろみがついたら、行動カウンセリングをより楽しいものにできるのではないだろうかと思わずにはいられません。
みなさんのお役に立つ情報を流れるような文章でお伝えできるよう、文具とコーヒーの助けを借りながら頑張りたいと思います。
(10) 研修中です。
こんにちは。Jiu動物行動クリニックのむろいです。
この「Jiu勉強帳」には、獣医動物行動学に関わることや獣医学に関する覚え書き、日々感じたことなどを自由に書き綴っています。
先週から、「研修のため」と称して休診日が続いており、ご迷惑をおかけしています。
どこで研修を受けているかと申しますと、市の保健福祉センターです。
内容は、「ファミリーサポート提供会員講習会」。
え〜、全国の自治体にファミリーサポート制度というのがございまして、端的に言うと保育事業の隙間を埋める育児サポートをする人向けの講習会です。
計24時間の講習を終えると、提供会員として活動を始めることができます。
保育園に迎えに行けないお母さんに代わってお子さんをお迎えに行き、自宅でお預かりしたり、ひとりだと大変な思いをする、病院の待合室などでお子さんを見ていてあげたり。
そんなちょっとしたお助けを頼める制度があるんですね。
私も、3、4人目の子になる双子を産んだころにその制度について教えてもらった覚えがあります。
近くに親類がいない私たちにとって、とても心強い制度だなと思いました。
でも実際は、なんとか夫も私も元気で過ごせたお陰で登録も利用もしないまま保育園入園を迎え、無事に小学生になってくれました。
子どもが全員小学生になるって、なんて素晴らしいことなんでしょう✨
保育園の送り迎えや幼児期だからこそ手のかかるあれやこれや…色んなことから解放されて、働かなかった頭がようやく軋みながらも動くようになり、これまでの経験プラス子育てで経験したことがうまく合わさって、この仕事に活かせるのではと思えるようになりました。
今回の講習会、本来は「困っている親子のお役に立ちたい」という思いを抱いている方のためのものです。
もちろん、そういう気持ちもなくはないですが、私の動機としては9割「面白そうだから」です。
内容も素晴らしいんです。専門の先生に、保育事業について、子どもの発達について、発育について、はては心肺蘇生法まで。
子育てサポートをするにしてもしないにしても、生きていく上で絶対知っていて損はない、濃度の濃い知識と技術を、みっちり教えてもらうことができます。
子どもの発育、発達の話を聞きながら私が考えていることと言ったら、イヌの場合はどうだろう、生後○週でこんなもんよね、とか。
認知の発達についての講義などはもう楽しすぎて授業中、鉛筆が止まらないぐらいです。
ひととイヌ、ネコが持つ共通の部分。それを考えながら聞く子育て講習会ははっきり言って2度美味しい。
新しい扉を二つも三つも開けてもらっている気分です。
計画している診療室は、小さいスペースながら畳の小上がりとトイレがついた土間空間になる予定です。
保育園の玄関ぐらいの広さでしょうか。
ここなら、空いた時間にお子さんを安全にお預かりすることもできそうです。
洗面台は、小さなおともだちが来ても使いやすいように、ちょっと低めに設計してもらおうかしら。
なんなら、カウンセリングに付き合ってくれるわんこが喉をうるおすことも考えて、めっちゃ低めにしようかしら。
なんて好きなことを妄想しています。
講習会も、残すところあと2日。
修了証を受け取れるよう、しっかり頑張ろうと思います。